セルビアの料理
セルビア共和国 Republic of Serbia | ヨーロッパ →この国の料理のレシピ・リンク集|世界料理マップについて
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トルコ、オーストリア=ハンガリー帝国の影響を受けた料理
古くは東ローマ帝国、またオスマントルコ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国の占領時代を経て、ユーゴスラビア時代には国家の中心地でもあったセルビア。古代ローマの時代から、大河にはさまれた肥沃な土地が広がり、夏と冬の寒暖の差によるおいしい農作物が育つ美食の地として称えられてきました。民族叙事詩の伝承とともに、セルビア正教会の信徒であることは、異民族の侵略路だった激動のバルカン半島で国の存続と信仰を守り抜いた誇り高きセルビア人のアイデンティティであり、その結束力の源でもあります。
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セルビア |
豚肉を好むセルビア人
首都ベオグラード市内を流れるドナウ川、サバ川の両岸は、およそ500年続いたかつてのオスマントルコ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国の国境でした。そのため、セルビア国内でも料理に地域色があり、おおまかに北部(ヴォイヴォディナ州)はオーストリア=ハンガリー、南部はトルコの影響が今も受け継がれています。 さらにロマ文化の影響から、ヨーロッパにありながらエキゾチックなオリエント的要素も垣間見られます。
そんな環境の中で、セルビア人は古くから農牧を営み、南スラブのキリスト教正教会の信徒らしい食文化を育んできました。
たとえば、国民食といえるほど愛されているチェバプチチ。トルコのキョフテに似たひき肉のグリルで、語源はおそらくトルコのケバブですが、スパイスは加えず、皮なしソーセージのようなぷりっとしたテクスチャーを大切にしながら、セルビアやその周辺国独自のグリル料理として発展しました。
オスマントルコに抵抗した第一次セルビア蜂起の立役者ジョルジェ・ペトロヴィチ(カラジョルジェ)が豚商人だったこと、また豚肉をタブー視するイスラム教徒の侵略者へのアンチテーゼなどから、豚肉はセルビア独立を象徴する食べ物のひとつともされます。
もちろんおいしいということもあって、セルビアではチェバプチチや、ハンバーグ状のひき肉グリルのプレスカビッツァなどに豚肉を好んで加えます(牛肉と混ぜて使うことが多い。イスラム教徒の多い隣国ボスニア・ヘルツェゴビナではチェバプチチに豚肉は使わない)。これらはソムンという、イタリアのフォカッチャまたは中東のピタに似たパンにはさんで食べます。 発酵キャベツ(サワークラウト)に具を巻いて煮込むサルマや、パプリカの詰め物を煮込んだプニェネ・パプリケなどにも豚肉やベーコンがよく使われます。
南部の街レスコバツのグリル・フェスティバルの目玉にもなっている豚の丸焼きも、非常にポピュラー。肉料理はセルビア人の大好物なのです。また内陸国のため海はありませんが、ドナウ川やサバ川などに面している地域ではカワカマスやマスなどの魚のグリルを食べます。
セルビア発祥のパプリカ・ペースト「アイバル」
一方、セルビアの中でも人気のある野菜のひとつは、パプリカ。パプリカは隣国ハンガリーが有名な産地ですが、セルビア発祥のパプリカを使った食品といえば、何といってもアイバル Ajvarです。アイバルは焼いたパプリカをひまわり油などと一緒に煮込んでペースト状にした調味料で、先のチェバプチチやプレスカビッツァのサンドイッチなどにはさんだり、パンにつけたり練りこんだりして食べます。
アイバルの語源といわれるのはトルコ語のhavyar(キャビアと同語源)で、ベオグラードを流れるドナウ川で獲れたチョウザメの卵が手に入りにくくなったときに、代用品として作られたのが始まりだといわれています。毎年9月中旬ころから冬支度としてアイバルやピクルスをたくさん作るのが、セルビアの田舎の伝統行事でもあります。またトルコ発祥の乳製品カイマックも付け合わせに好まれます。
ほかには、フェタタイプの塩気の強い白チーズ、白チーズとほうれん草に似た青菜、ひき肉などさまざまな種類の具を薄いパイ皮に包んで焼いたブレクや、白チーズとたまごのパイのギバニッツァ、ブルガリア、マケドニア、セルビアにまたがるショプルク地方発祥の白チーズをたっぷり乗せたショプスカ・サラダ、セルビア独自のシンプルなスルプスカ・サラダなどが食べられています。またスラブ民族特有の酸味好みも受け継いでおり、先の発酵キャベツや、サワークリーム、酢などを料理によく使います。
東西文化がミックスしたお菓子
お菓子にもオーストリア=ハンガリーとトルコという東西文化がミックスしています。トルテやシュトゥルーデル(バクラヴァが元祖といわれるパイの一種。ハンガリーではレーテシュ)、シュニッテ(スライスケーキ)類、くるみを使った馬蹄型の焼き菓子オラシュニッツァのほか、旧オスマン帝国領内で今も見られるロクム(ターキッシュデライト)、ヌガー状のお菓子ハルワも。またセルビアが世界第4位の生産高を誇るラズベリーを使ったお菓子にも人気があります。
パン類は先述のソムンのほか、復活大祭やクリスマスなどセルビア正教会の祝祭等に作られる特別の飾りを施したパン、とうもろこし粉を使ったプロヤなどが食べられています。
飲み物では、トルコ式のコーヒー、フルーツやハーブティーのほか、アプリコットや洋ナシなどの果物を使った蒸留酒ラキヤが有名。特にセルビアのお祝いの席にはラキヤが欠かせません。またワインの生産も盛んで、日本にも輸入されています。
※上地図のコソボの名称・国境はセルビアなどの見解による。
■参考文献
e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、全日本司厨士協会会員 調理師。主な著書:図鑑NEOまどあけずかん「せかいのりょうり」監修(小学館 2021)、「世界の郷土料理事典」(誠文堂新光社 2020)。
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セルビアの首都ベオグラードは、ドナウ川とサバ川の合流地点に広がる、ヨーロッパとアジアを結ぶ交通の要衝。サバ川流域には、美しい旧市街が残っています。
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