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2010年07月28日

平城京の宮廷料理 奈良|シルクロードの料理2

[ ■全国・食の旅 , ■食の話題いろいろ , 歴史的な料理 ]

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ヘルシーな古代貴族の料理

2010年、平城遷都1300年祭でにぎわう奈良で、現代に再現された平城京の宮廷料理をいただいてきました。シルクロードを通じて大陸から伝わった食材や、今の私たちにおなじみの料理のルーツもちらほら見られる興味深い食事だったので、リポートしてみます。



会場は、奈良パークホテル。この宮廷料理の宴は、平城遷都の記念年に合わせて開催しているわけではなく、奈良時代の皇族・長屋親王邸跡から発掘された木簡の記述などを頼りに、25年も前から続けられている筋金入り。現在の尾道料理長ももう20年以上手がけていらっしゃるベテランで、古代料理について精通された方でした。食事をしながら料理長さん自らのレクチャーも聞け、とても勉強になります。

日本全国から取り寄せた(平城京の時代は貢進物として都に運ばれた)、旬の食材を使った20品もの料理。これだけでも贅沢なのですが、驚くべきは、古代宮廷料理の、今に通じる健康への気遣い、栄養バランスの見事さです。ビタミン・ミネラルが豊富な穀物の黒米や赤米をはじめ、乳製品の「蘇(そ)」、野菜、豆、魚、肉などなどバラエティな食材...。そして調味料は醤(ひしお)と玄米酢、藻塩のみ。魚や野菜といった食材は焼いたり、煮たりしただけで、調味料で各自好みの味付けにします(この方法、自分が人に料理を出すときにラクでいいかも、などとつい思ってしまいました...(笑)。

なお料理の方は、昔は厨房が食卓から遠かったため、上写真(模型)のように(汁物以外は)いっぺんに出されたそうですが、こちらでは、羹(あつもの)、御もの(ごはん)、あぶりもの、ゆでもの...といったように何度かに分けて出されました。

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↑左写真(手前)は古代の調味料3点。左から藻塩(もしお。海草入りの天然塩)、玄米酢、醤(ひしお)。藻塩は肉、酢は魚、醤は野菜料理に使うという。酢は古代には「からざけ(辛酒)」とも呼ばれ、お酒の一種と考えられていた。また、塩辛のようなペースト状の醤は、現在のみそ、しょうゆのルーツといわれる。豆板醤(とうばんじゃん)、コチジャンなどのように醤は中国語やハングルで「ジャン」と読むが、その見かけの通り、大陸から伝わったことがうかがえる。ちなみに奈良時代には、砂糖やみりん、昆布だしといった調味料はなかった。唐辛子もなかったが、にんにくやしょうが、山椒はあったという。

右写真は夏の宴らしい、涼しげな氷の皿(氷室という)に乗せたなます(魚はスズキ)。紀伊の国(和歌山)から取り寄せたものだという。古代では夏の氷は大変なぜいたく品だったことだろう。

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↑左写真は、この古代宮廷料理のメインのひとつでもある蘇(そ)(メニューには「熟蘇」と書かれている)。牛乳をそのまま15時間煮詰めて固形化したもの。「古代のチーズ」と称されることもある。いかにも中央アジア風な食べ物だが、そういえば、以前、今はなくなってしまった東京・板橋のモンゴル料理店で似たようなチーズを食べたことがある。どこかで関連があるのだろうか(ただし、釈迦の苦行後の疲労を救ったのが娘スジャータの捧げた牛乳(乳がゆ)で、牛乳と仏教は非常に関係が深いことから、インド?中国からの仏教伝来と関連して入ってきたものかもしれない)。

蘇は乳糖のほのかな甘さだけ。砂糖のない時代には貴重だったそうで、滋養強壮食品として宮廷で珍重された。噛んでしゃりっとする食感と、甘くないコンデンスミルクのような独特な味わい。単独で食べてもいいが、お酒のつまみやお茶請けなどにしてもよいとのこと。最近ちょっと有名になって、奈良のおみやげ屋さんでも売られるようになった。なお古代の乳製品にはほかに、蘇から作る醍醐(だいご。「醍醐味」という言葉のもとになった)が有名。こちらは製法が記録に残っていないようだが、牛乳を熟成させたもののようで、おそらく醍醐の方がチーズに近かったのではと思う。

右写真は、あゆのなれずし(熟寿司と書くこともある)。いうまでもなくスシのルーツ。魚を塩味をつけたご飯で包み、発酵させた保存食品である。実際はもっと匂いが強烈だと思うのだが、こちらの宮廷料理では、酢飯風にマイルドに食べやすく工夫している。現在でも滋賀県の琵琶湖のふなずしや和歌山のサバのなれずし、岐阜のあゆずし等のなれずしが有名。なれずしの起源は、紀元前4?3世紀の中国雲南省、メコン川流域(ベトナム、ラオス、タイ、カンボジア)だといわれる。つまり、スシの原型は、「海のシルクロード」から伝わったものだった。

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↑夏鮭(北海道出身者が絶賛する時不知=ときしらず)(下)と、参河国(三河国)産のサメ肉のあぶりもの(上の白い方)。手前の黒い豆粒は、大豆を麹と塩で熟成させた「最古の納豆」。寺社で作っていた精進料理の中の大豆食で、糸は引かず、現在の京都の大徳寺納豆などに面影を残す。ちなみに納豆は大陸由来ではなく、古来からある日本発祥の食品といわれる。

右写真は、海草を固めた心太=ところてんの原型(うしろの固形の方。味はまさにところてん!)と、備中国の水母(くらげ)。メニューには、味凝(うまこごり)と記されている。さっぱりとして夏の宴にふさわしい一品。

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↑左写真は、ハスの葉にくるまれた阿波国産イノシシ肉と、レンコン、ハスの実の包み焼き。中国ではワイルドに、葉ではなく泥で包んで焼くそうだ(日本は昔から繊細な国だったのだ(笑)。仏教の影響から殺生を禁じる奈良時代には、肉を食べてはいけないお触れが出ていたはずなのだが、イノシシの肉は薬用として食べられていたそうだ。ちなみにこの宴では鴨肉も出た。

右写真は、温かいお吸い物。味はついておらず、藻塩で好みに味をつけていただく。素材そのものの味わいと、じゅんさいなどが入った食感が何ともいえず、また食べてみたいと思った一品のひとつだった。

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↑左写真は、阿波国産の黒米ごはん。雑穀のようなシャキシャキの食感がいい感じだった。黒米は古代中国では薬膳として知られ、皇帝献上品だった。「胃腸を丈夫にし、慢性病、虚弱体質の改善など滋養強壮に効果があり、造血作用もある」という。松の実がトッピングされていた。右写真は、丹後国産の赤米のおかゆ。ささげ(小豆)が入っていて、滋味たっぷり。

料理にはほかに、いりものの鰻(万葉集にも出てくるのだそう)、日本の漬物の元祖ともいわれる須須保利(すずほり)漬けなどが出された。ちなみに、奈良といえば奈良漬けがあまりに有名だが、1300年前は「かす漬け」と呼ばれていたという。江戸時代になって奈良漬けの名前が定着した。漬物もまた、中国伝来の食品だ。

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↑左写真は、唐菓子の数々。名前の通り小麦粉や米粉を使った中国の唐由来のお菓子で、いうならば「古代のクッキー」。左横の黒いうずまきのお菓子は「環餅(まがり)」といい、かりんとうのルーツともいわれる。ニッキ(シナモン)の香りが香ばしい。中央の丸くて白いお菓子は「餢飳(ぶと)」といい、春日大社の神饌にも使われる柏餅のルーツ(中に餡が入っている。春日大社の神饌には餡は入っていない。=右写真)。そして細長くてねじったお菓子は、そうめんのルーツで、日本最古の麺といわれる「索餅(さくべい。または、むぎなわ)」。材料は小麦粉と米粉といわれるが、「日本めん食文化1300年」の著者・奥村彪生さんの説では、材料は小麦粉だけで、油で揚げた他の唐菓子と違い、本来は油で揚げなかったのでは、とのことだ。

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↑索餅を割ったところ。これがそうめんのルーツ?と思うと、不思議な感じ(そうめんについては別途、リポートします)。

右写真は、木菓子(こがし)という果物の盛り合わせ。まくわうり、すもも、栗、干しいちじく、(そしてなぜか)枝豆と、古風で素朴な果物が色合いもかわいらしく盛られている。いちじくは西アジア、すももは中国、まくわうりはインド原産なので、これらの果物もシルクロード経由で日本にやって来たのだろうか。

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↑左写真は古代の白酒(しろき。ホテルでは商品化もしている)。ほんのり甘いどぶろくで、飲み放題。アルコール度はそれほど高くなく、スルスル飲める。酒造りは朝鮮半島の百済からきた酒職人が伝えたそう。そして、締めはドクダミ茶。最後までヘルシーなのだ。

右写真は古代の箸。長さ30cm、直径1cmはある大きな箸で、現代の感覚だと食べにくそうなのだが...。

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↑出土した木簡の模型。ここにレシピが記されている。右写真は宮廷料理の宴の会場「大宮の間」。ほの暗くムードも満点。さらにBGMは雅楽で、お客は古代の衣装風の羽織を着るコスプレ?をさせられる。完璧なシチュエーションだ(笑)。ホテル側の気配りに感服。

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↑現在の平城京跡地(この朱雀門はリメイク。平城京は、唐の首都・長安を模したといわれている)。跡地の中央を近鉄電車が横断する。普段は夏草の茂る何もないところなのだが、遷都1300年祭の間は、ブースが建てられたり、ライトアップされたりで多くの人が訪れ、いろいろな関連の催しが行なわれている。

右写真は、そのシュールな?容貌が当初は賛否両論だった平城遷都1300年のマスコット「せんとくん」。今では奈良の街のあちこちにせんとくんのポスターやオブジェが飾られ、おみやげ屋にはグッズの山。私も最初はなんだこれ?と思っていたのだが、今では押し切られたというか...。慣れってあるのですね(笑)。


尾道料理長いわく、以前は木簡に記されたレシピを忠実に再現していたけれど、おいしくないというお客さんの声もあり(苦笑)、現在はオリジナルを活かしながらアレンジしているとのこと。たとえば、いのししの肉など本来はビーフジャーキー並みに固い(歯を強くするため、という説あり)のですが、宴では柔らかく、おいしくいただけるようになっていました。いわば高級料亭のような繊細な料理です。オリジナルの古代料理を食べてみたかった気もしますが、長く続けるためにはこれは仕方のないことでしょうか、ね。

また、献立の内容は旬の食材を使っているため、季節によって変わるとのこと。麺料理が出ることもあるようなのですが、残念ながら今回はその時期ではありませんでした。シルクロードに関わる奈良の麺料理については、次回、リポートしたいと思います。

***

さて、奈良では、8月には平城京のライトアップが行なわれ、また10月には正倉院の宝物展(普段は非公開)があるなど、これからおもしろそうな催しが続きます。この機会に、古代の食べ物に舌鼓を打ったり、平城京跡地に降り立って、1300年前のシルクロードの東の果てにロマンを馳せてはいかがでしょうか。

次回は、同じく奈良の日本最古の麺について綴ります。



Author: ゆ

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